バルフレアが愛してると呟く。アーシェの髪を煩わしそうに、けれど愛おしそうに手に絡める。
それが彼の合図だった。もう他人とも仲間とも呼べないとわかってしまってからは、なんとなく彼のことがわかるようになったと彼女は感じる。全てを知っているとはいえないが。
過ごす時間が長くなると、こんな、誰も知らない彼の仕草もクセもわかる。
だからアーシェは抵抗しなかった。彼が愛してると呟くのは、彼が孤独を感じているときなのだからと。
「アーシェ」
小さな背中を撫でながら、首筋に唇を寄せながらバルフレアは愛しい名前を呼ぶ。その声色があまり
にも悲しそうで、彼女は彼の背に手をまわす。
何に傷ついたの?何が彼をこんなにも悲しい気持ちにさせてるの?同じようなとき、彼女は尋ねたがバルフレアはただ器用に微笑むだけだった。
彼は決して痛みを口にしない。知っているのは、彼の風化された痛みと許された過去だけ。きっとフランに対してもそうなのだろうと思っている。
だから、彼の心はずっと痛い。今もきっと痛い。だから彼が求めることを全て受け止めたい。
傷が癒される場所があるのなら、自分のもとでなくてもいい。そんなことで嫉妬はしない。それでも、こうして彼は自分を求めてくれることにひどく安心する。
お互い上手に甘えることができないなら、不器用な二人を認めて、隠しきれなかったほんの一部分を見つけるしかないのだ。
「大丈夫よ・・・」
気休めにもならない言葉だけれど、でも、何があっても私がいるから。
苦しそうに微笑んだバルフレアにそっと口づけた。
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