ふと目が覚めると、となりにいるはず彼女がいないことに気付いた。
彼女の存在を確かめるのは、もう癖になっていた。そして彼女がとなりにいないことも何度かあった。
けれども不穏な空気はどこにもない。たぶん少し前に目が覚めて、ちょっと抜け出しただけだろう。
そう思うのに、それでも彼女の姿を探してしまうのは、きっと自分が寂しいからなんだろうなということはわかっていた。
「なにしてるんだ?」
身体を起こして少しみわたせば、彼女はすぐに見つかった。窓際で手を合わせて目をつむっていた。
月明かりだけが差し込むこの部屋で、神秘的な儀式をしているようだった。
しばし見つめた後、彼は彼女に向って尋ねた。
彼女がその声に振り返ったときにはもう、彼はベッドを抜け出そうとしていた。
「・・・今日は願い事が叶う日なの」
「へぇ」
彼は間抜けな声を出しながら彼女のもとへ歩み寄る。その声に彼女は少々呆れたようだった。ムードも何もないといいたいようだ。
それでも彼女は少しだけ嬉しそうに続けた。
「今日は、1年に1度だけ離ればなれになった2人が会えるのよ」
「あぁ、その話は知ってる。よかったな」
「もう」
今度こそ呆れたように彼女はため息を吐いた。彼はそんな彼女がかわいくて思わず笑みを零す。
そんな話ははじめて聞いた。たぶん、この地方にしかない言い伝えなのだろう。
ゆるく彼女を抱きよせて、わざと耳元で囁く。自分は思った以上に、目覚めたときに彼女がいなかったのが嫌だったらしい。
「それで?女王さまの願い事は?」
「・・・イヴァリースの平和がいつまでも続きますように。それだけよ」
少し拗ねたように、けれども彼女は本心を話す。当然だが、それがまたおもしろくない。
今度は彼が拗ねたように尋ねる。
「それだけかよ」
「今のところね。でも、願い事が1つだけなわけじゃないのよ」
「へぇ?」
今度はおもしろそうに彼は相槌する。それが彼女にはわかったから、彼のほうに振り向いて、彼の唇に人差し指を立てて少し意地悪く微笑んでみる。
「でも、教えてあげない」
そして彼女は深く微笑んで、彼の腕をすり抜けてベッドに戻る。楽しそうなのがみてわかる。
いつ叶うかわからない願い事より、ちょっと意地悪で意地っ張りの彼女のほうが愛おしい。
彼は微笑んで、わかりきっている彼女の願い事をどうやって聞きだそうか考えながら、かわいい彼女を捕まえるべく向かった。